③郡津〜星田

交野市を歩く

 京阪電車に乗って枚方市駅辺りに来ると生駒山地が近くに現れる。もう京や北摂ではなく、河内国に入って来て、生駒西麓を歩くのだというイメージが膨らむ。特急も止まる枚方市駅で交野線に乗り換え、前回の終点・郡津駅で降りる。小さな駅に不似合いな大きな建物とフェニックス広場が迎えてくれる。交野会館と国際交流協会の建物のようだが、昭和30年には1万人程度の田舎町だった交野町が市域も広げ、現在8万人の人口を抱える交野市になった。急発展を遂げた町だが、その傷跡も見ていく街道旅になる……。

郡津から星田へのカシミールマップ
郡津~星丘の歩行軌跡

街道は幹線道路で分断されて

 ほんとに良い天気で、この陽気を楽しみながらゆっくり歩きたいものだ。京阪電車の線路を跨ぐ高架道路に沿って西方へ、天野川を越えたら左折、堤防を行くことになる。天野川は生駒山地を水源に、饒速日が岩に乗って降臨したという磐船神社近くを流れ、流域に七夕伝説のある有名な川だが、この平地まで来ると普通の川に見える。しばらく行くとやんわり曲がって住宅地の中に入る。昔は川堤を行くのんびりした風景だったのだろうが、今は住宅が建て込み歴史風景など目に入ってこない。

 近年整備されたのだろうが、幅広の道路で街道が分断されていて、先とどのように繋がっているのか見えてこない。道路を渡ったところで家の前に出てきたおばさんに聞いてみると、東高野街道のことをご存知だった。知らんと言われたらどうしょうと思ったが・・・・・・。少し行くと歩道は道路から右に少しずつ広くなっていて、信号の先に続く細い道と繋がっているのが見えてきた。指差して私が合点いくまで何回も教えてくれるのだが、説明されて見えてくる風景というのもあるんだな。「何とか松という地蔵さんの広場があって、さらにまっすぐ行くと大峰山やら何たら書いた道標もあるから」と、噛んで含めるように説明してくれる。おばさんと言っても私よりはちょい若そうやけど、ここは殊勝に教えを乞う。

街道は布教の道でもあって‥‥

 思っていたより長く歩くことになるが、「本尊掛松」の史跡があった。我が家の宗旨でもあるが、融通念仏宗中興の祖、法明上人が十一尊天得如来の画像を松に掛けて念仏踊りをしながら布教したという伝説がある。融通念仏宗はご本尊が檀家に出向いてくれるという布教で、我が地域でも「天得さん」が来てくれる。お辞儀をしていると、ご本尊の絵巻を納めた軸入れ箱でゴツンと頭を叩いてくれる。痛いほど有難いとか言って腹も立たないのだが、本尊出張というこの宗派に特有な布教のことを物語っているのだろう。大きめの上人石像とその横に絵を掛けた松が植っている。古い街道にはこのような伝説は付き物で、旅をしたり物を運んだりだけではなく、宗教の布教や巡礼、噂や情報伝達、ある時は事件の現場になったりもする。

 坂道を少し登ると、教えてもらった道標があった。東高野街道は南方へ行くが、東へ行くと大峰山に至ることを知らせている。大峰山詣は青年への通過儀礼だったのだろうが、地域で講を作って団体で出かけたようで、大坂市中も含めて関西圏では盛んだった。高度成長期までのことのようで、皆が車を持てるようになると個人の登山趣味になってしまった感がある。

赤いよだれ掛けの地蔵さん

 古街道は大きな高架道路建設には太刀打ちできるものでなく、あっさり分断されてしまっている。私も岐阜などに行く時利用している第二京阪道路の高架と側道の幅広道路が我が物顔に通っている。街道は茄子作南町交差点を斜めに横切り、南方に真直ぐ伸びているが、古の道というイメージはまったくない。トラックやトレーラーがビュンビュン走り、歩道も満足にない道を体を小さくして歩かなければならない。

 しばらくすると古道には付き物の地蔵さんが立つ。道路から離れて星田小奈辺墓地があり、それへの参道入り口で大小7基ほどの地蔵さんが迎えてくれる。地蔵の全てに赤いよだれ掛けが付けられていてかわいい。今までそんなに意識はしていなかったが、ここの地蔵さんにはほんと癒される。ホッとしたのもつかの間、また道路側を歩く。フジオフードの「まいどおおきに食堂」が角にある交差点を西に入るが、その彼方にはささくれだった風景が広がっているのだった。

星田北土地区画整理事業

 大きな工事現場だが、地図には途中から左に入り、クネクネ曲がりながらJR星田駅まで行くような小道が描かれている。いくら歩いても小道は見出しがたく、地域全面が工事現場になっている。

星田北土地区画整理事業とかで、戸建住宅、マンション、ショッピングモール、ロジスティックなどが建設される大開発だ。戻るのも嫌だしぐるっと工事現場を一周してみることにする。造成地の周り、約500m四方を回ったことになるが、消耗するだけで、2kmの無駄だった。星田駅の南側は昔から開けていて住宅も密集していたが、北側は平成になっても田畑が広がり、東高野街道はその間を行く長閑な道だった。この開発で街道筋は跡形もなく消えてしまうだろうな。第2京阪道路が付いてからか、この地域は急激に開発の波に飲み込まれてきたのだろうが、我が東高野街道の命運も尽きかけている‥‥。

駅前のかわいいお店

星田北地区の工事現場の周りを散々歩かされ、消耗気味で疲れた。JRガード下を通り南側へ回ると、ちょっと寂れかけた、どこにでもありそうな商店街が続くが、こんな風景の方が何だか落ち着く。星田駅前まで来て、ソレイユカフェというかわいい喫茶店を見つけて、迷わず入る。まずはビール、そしてスパゲッティ・ランチを注文する。このスパゲティもそうだが、パンも手作りで、追加してしまうほど美味しい。お姉さんも客捌きが上手で愛想が良い。支払いをする時いかにも親しげに「気を付けて行ってくださいよ」と言ってくれるので「なんで?」と尋ねる。「ビール飲んだはりましたから」と。当方はそんなことも忘れていたので、ああ気を引き締めて行かなと、この娘の親切心が骨身に染みるのだった。駅周辺が再開発されてもこの店だけは残って欲しいと祈るばかりだ。(探検日:2023.1.12)

投稿者:

phk48176

古市古墳群まで自転車で10分、近つ飛鳥博物館まで車で15分という羽曳野市某所に住む古代史ファンです。博物館主催の展示、講演会、講座が私の考古学知識の源、それを足で確かめる探検が最大の楽しみ。大和、摂津、河内の歴史の舞台をあちこち訪ねてフェイスブックにアップします。それら書き散らしていたものを今回「生駒西麓」としてブブログにします。いろいろな意見をいただければ嬉しいです。

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